Walk on the Wild Side〜ワイルドサイドを歩こうよ〜

ロストテクノロジー

「かつての黄金時代はもうやってこないでしょうね」

と、ミラノを拠点に世界で活躍する
河合さんは静かに言った。

淀川に沈む夕日の眺めが美しい
ホテルの一室で行われた
河合さんのトランクショー。

服飾業界のこと、世界の動向、
仕事や働き方のスタイル、
時代や社会の変化、
ふたりで話し込んでしまって
対談のようになり気づいたら夕日も沈んで
外は真っ暗になるほどだった。

録音しておけばよかったと思うほど、
学びや気づきの多い時間だったし、
インスピレーションのわくような
自分にとっての心地よい聖なる空間だった。

ずっと同じ人間関係、同じ社会の中で
過ごしいるとこういった刺激は少ない。

そうなると思考は凝り固まり、
成長はほとんどない。

時代の変化にもついていけない。

そういったことを感じた時間だったし、
河合さんの口からでる服飾のエピソードにも
まさに「このこと」を話していた。

世界的に有名なカラチェニから
独立して自分でサルトリアをやるようになったのは、
教わりたいと思える職人がいなくなってしまったからだと
河合さんは言う。

カラチェニというのはあくまでブランドであり看板。

それを支えているのは腕の立つ職人たちであり、
どの時代も伝説と呼ばれるほどのサルトがいた、と。

興味深かったのは、かつてカラチェニでは
フルコミッション制であり、
毎月職人としてのノルマがあったそうで、
それをこなせないと給料が支払われない
という仕組みだったらしい。

それくらい職人に溢れていたから、
基準もものすごく高かった。

必然的に競争が激しくなって
基準が上がる。

みんなが仲間でありライバル。

切磋琢磨して刺激しあって、
技術も仕事の質も上がっていったという。

当時を知る職人からきくエピソードでは
それうそでしょというような
仕事の話が次々と出てくるという。

例えば、ポケットひとつつけるにしても
今の常識から考える工程時間の
2倍以上のスピードで仕上げていたそうで、
やり方を聞いてもウソだと思うくらい
信じられないらしい。

もちろんただ早いだけでなくて、
クオリティも高い。

そして、ここからが大切なところで

それが当たり前の基準となっていた

ということ。

河合さんが指摘していて僕も大きく同意したのはここで、
要するに周りにいる人たちや
そこの基準で自分が出来上がってしまうということ。

例えば、このブログ記事でも
1記事平均10分で書いている、
というのを知ったとして、
そこの会社内ではみんなが10分で
記事を書いていたとしたら、
それが基準になるだろう。

逆に1記事1時間で仕上げている
というのを知って、
そこでブログを書くことになったら
自然とみんなが1時間くらいに
なってしまう。

こうやって基準が出来上がるのはよくあること。

特に服飾の世界は味が出る、つまり自分の色がでるのは
還暦を過ぎてからだと河合さんは言っていたし、
ジャケットひとつができるようになるとしても、
最低でも10年はかかる、と。

では、20歳から服飾の世界に入ったとして、
どのサルトについて教わるかによって
10年たった30歳のときに
ずいぶんと結果も人生も違っているだろう、ということ。

カラチェニに入ったからと言ったって
良い職人がいるわけではないし、
ナポリのサルトがよいわけでもない。

玉石混合だから、誰についていくかを
見極めるのはものすごく大切だと
河合さんは言う。

僕もこのあたりは同意で、
どんなに意志が強い人であっても
少なからずまわりの影響は受ける。

であるならば、自分の望むようなところ、
理想世界に近いところ、
基準が高いところを選ぶ方がよい。

心地よい、生ぬるいところにいてしまうと
それが基準になってしまうからね。

そして、一度できてしまった
基準を引き上げることはなかなか難しい。

それは手仕事へ敬意を払い
スーツをオーダーするという人たちが
少なくなってきたことや、
それを実現できるサルトが少なくなってきたことも
関係している。

フルコミではなく給料制になったら、
ゆるくなってしまうからね。

そういった背景もあって
技術も心構えも基準が下がっていく。

直接教わりたいというか、
いっしょに仕事をして、
技術を盗むというか、
学びたいと思えるような
職人も減ってきたし、
機会も少なくなってきた、と。

このあたりの問題意識は僕も似ていて、
なるべく基準の引き上げと、
直接携われる機会というのを
増やしていきたいと常に思っている。

失われた技術を知ったとしても
触れる機会がなかったら
想像するしかなくなってしまうからね。

仕事の在り方や手仕事のこと、
他にも美意識についてなど
いろんな話をしたので
ブログに書きたいのだけど
長くなってしまったので、
今日はこのへんで。

基準を引き上げるために、
失われつつ技術を習得するために、
身の振り方には気を配っていきたいね。

では。

島田晋輔

PS)

今日の一曲はこちら、、、



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